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「許嫁・・・?」
「おまえの結婚相手のことだ」
「意味はわかります!!私に許嫁がいるんですか!?」
「そうだ、いってなかったか?」
コーヒーを飲みながら新聞に目を通す父はあっけらかんと答えた。
「聞いてません!」
「なら今言った!!」
新聞から目を外して俺の方を見てニヤーって笑う父。
「いつから決まってたんですか」
「生まれる前から」
「あなたも性格が悪いわ、あえて言ってなかったんでしょう?」
俺と父がいる父の部屋に母がノックしながら入ってきた。
「んん?そうだったかな?」
母が入ってくるとばつが悪そうにする父。
「生まれる前から決まってたってどういうことですか」
「昔ながらの友人と約束したのだ。」
それぞれ男女の子供が出来たら許嫁にしようと」
「この家も代々絶やすわけにはいかない魔法騎士の家、
先方にもその話をしたら乗り気で聞いてくれてな」
「そんな簡単に・・・!?」
「簡単だけな話ではないぞ!ちゃんとこれまでの様子を見て正式に決めた」
「正式に?」
「おまえがその子を気に入らなければ、許嫁の件は白紙にするつもりだった」
「もともと酒の席での話だったしな」
「母さんから聞いたぞ、最近箒の練習してるそうじゃないか」
箒の練習は夜な夜な一人で秘密で練習していたので、
全部ばれていたことに恥ずかしさを覚える。
「恥じることはないぞ、向上心があるのはいいことだ」
「それにその子のためなんだろう?」
「あなた、まだお相手がどなたか言ってないでしょう?」
「その子とは・・・私も知っている相手ですか?」
父にそう尋ねる。
父はまっすぐ俺の方を見据えるて笑う。
「ああ、よく知ってるだろう。」
「相手はフライハイト家のシェルムさんだ」
名前を聞いた瞬間、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃。
シェルムが、俺の許嫁?
「フライハイト家とロードナイト家はもともと家同士も仲が良くてな」
「先方の意志もちゃんと確認しての話だ、また近く正式に顔合わせはする予定だ」
「ルークも驚いたでしょう?内緒にしていてごめんなさいね」
「シェルムちゃんがお嫁さんに来てくれるなら私も反対する理由はないかなって思ったの」
「・・・失礼します!!!」
「あ、ルーク!」
「放っておけ」
俺は父と母がいる部屋から飛び出し、シェルムのところへと走った。
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「シェルム!!!」
フライハイト家の二階、シェルムの部屋の窓に向かって名前を呼ぶ。
するとひょこっと顔を覗かせるシェルム。
「あれ、ルーくん!どうしたの?」
「シェルムは知ってたのか・・・俺との・・・許嫁の話・・・」
「うん!だいぶ前にお父さんから聞いてたよ」
「知っててOKしてくれたのか?」
「うん!だってルーくんとはずっと一緒にいるつもりだったし」
「許嫁ってずっと一緒にいることでしょう?」
「それは・・・そうなんだけど・・・」
今の言動からするに、シェルムは許嫁の意味がちゃんとわかってるのかどうかあやしい。
でも俺とずっと一緒にいることには嫌がるそぶりは見せない。
「俺と、ずっと一緒にいてくれる・・・?」
「もちろん!これからもルーくんと一緒にいたいよ」
俺のはちゃんと恋心だという自覚はある。
シェルムの気持ちがどうかはわからない・・・でもこれからも一緒にいれる。
それはわかる。
「あ!ルーくんそういえば、最近ララちゃんと一緒に街にビーズ買いにいったんだよ」
「かわいいビーズいっぱいあって、私もララちゃんも迷っちゃってね~」
「今度かわいいの作れたらルーくんにもあげるからね!!」
「ありがとう」
「うん!!!」
まだ、まだ自覚にはシェルムは幼いのかな・・・
俺と歳が少し離れてるから・・・今ずっと一緒にいると思ってくれてるだけでも。
俺はめちゃくちゃ嬉しいから。
シェルムが俺の許嫁。
この時ばかりはいくら尊敬する父であっても、なんだか許しがたい気持ちになった。
***
後日、正式にフライハイト家との顔合わせがあって。
俺とシェルムは正式に許嫁になった。
シェルムだけはずっと事の重大さに気づいてなかったけど。
いつかちゃんと俺に恋心向けてくれれば嬉しい。
騎士道のために鍛えることを目標としていたが、
シェルムにちゃんと男として見てもらえるように鍛えるようになった。
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許嫁発表から早数年、俺も16歳、シェルムは13歳になった。
***
許嫁になったからといって、俺とシェルムの関係が特段変わることはなかった。
相変わらず距離が少しあいたまま、同性の友達と俺はつるんでいた。
たまに会えば素直になれなくて、不器用に声をかけるぐらいしか俺にはできなかった。
俺はいよいよ明日、魔法学園へ入学する。
魔法学園は4年生の学園、長期休み等で帰宅は出来るといってもほぼ寮生活になる。
当然俺も寮への準備で忙しく、シェルムと会う機会は減っていた。
13歳になったシェルムはまだ可愛らしさが残るものの、確実に大人へと近づいていた。
俺の周りは16歳、色恋にざわつくお年頃で。
許嫁がいることを知ると、周りは俺をからかってきた。
まだ話を流すには俺は幼く、
丁度反抗期に差し掛かっていた俺は迷うことなく拳を繰り出した。
***
手を出し、相手に怪我をさせ自分も返り討ちを食らい、怪我をして帰る。
母はあきれ、父はこんなことで拳を使うなと俺を制した。
反抗期だったこともあり、親の言う事には耳を貸さず。
怪我をするとどこからともなく噂を聞きつけたのか、
シェルムが応急処置箱を持って二階にある俺の部屋に来てくれた。
「ルーくんまた喧嘩したって聞いたよ!相手にしちゃだめでしょ~」
そう言いながら、慣れた手つきで腕にある患部に消毒液を吹き付ける。
「・・・・っつ!!!」
「なんで喧嘩しちゃうの」
「それは・・・」
「ルーくんもう16歳なのに子供っぽいんだから」
歳下のシェルムにそう言われるのは複雑だった。
「ルーくん明日魔法学園に入学するんでしょ」
「・・・・ん」
「寂しくなるなぁ~」
絆創膏を貼って、これでよしというシェルムを俺はまじまじ見る。
「これあげる!!」
「今回は失敗してないんだから」
サッと俺の右手首にビーズで出来た星のブレスレットをつける。
「これって・・・」
「ルーくんが寂しくないようにおまじない」
にこーっと笑うシェルムに意地貼ってた俺も嬉しくなる。
数年前に貰ったビーズのブレスレットは
結び目が甘かったのかあっという間にバラバラになってしまった。
もっと頑丈なの作るからといってそれからしばらく音沙汰がなかったのだが。
「これシェルムが作ったのか?」
「当たり前でしょ~!」
緑と薄い黄色のブレスレット、星のビーズもついていて、シェルムの色だってすぐにわかった。
そんなブレスレットを贈ってくれたことが俺はめちゃくちゃ嬉しくて。
「大事にする!!」
「うん!!大事にしてよね~」
「勉強頑張ってね、また帰ってきた時に遊ぼう?」
「あぁ!」
「じゃあ、私もう行くね?手紙いっぱい書くからね!」
箱の中身をささっと片づけてシェルムは足早にこの場を去ろうとする。
俺はもうちょっと喋っていたくて思わず腕をつかんで引き留めた。
「シェルム、俺。約束守るから」
「星いっぱい見せられるように魔法いっぱい覚えてくる」
まじまじと久々にシェルムの目を見ると、
相変わらず俺の大好きな透き通るような青い瞳で。
「・・・うん」
心なしかシェルムの顔が赤いような気がする。
俺はその珍しい表情に見惚れ、シェルムが俺から目をそらした隙にシェルムにキスをした。
「・・・俺はシェルムが好きだから、他の男になびくなよ」
「心配だから」
そう素直に伝えてみたら顔赤くしながらコクコク頷くシェルム。
つかんでた腕を引っ張ってしばらくハグをする。
俺の鼓動の速さがシェルムに伝わってるかもしれない、
でもシェルムの暖かさがすごく心地がよくて開放することができない。
****
「シェルムちゃんもごはん食べてくー??」
下から聞こえる母の声にハッとして俺はシェルムを腕の中から開放する。
すると、シェルムは慌てて下に下りていこうとして少し立ち止まり。
「またね」
といって足早に階段を下りていった。
ごはん、自分の家で食べます~~!!と母に答えてるシェルムの声が聞こえる。
これでしばらく会えなくなってしまう。
けど、決して一方通行じゃないであろう気持ちに俺は嬉しくなってしまって。
しばらくにやけた顔を抑えられなくて。
俺の寂しい気持ちはどこかへ行ってしまった。
***** -
魔法学園に入学してから、俺はたくさんの事を学んだ。
剣術に関しては幼少の時から父から学んでいたものの魔法はからっきしで。
魔法を学ぶ専門学園なだけあって、自分の得意魔法でもある炎の魔法を伸ばすことが出来た。
先祖代々伝わる懐中時計をパチンと閉じれば炎を繰り出し、
さらにそれを剣にまとわせ攻撃魔法にする。
右耳に付けている角タイプのピアスを使って槍の様に魔法を繰り出したりと、
攻撃に長けたものもたくさん学んだ。
かといえば、物を大きくしたり物を浮かせたりするなどの初歩的な魔法や、
シェルムのためにと頑張っていた箒も今では軽々と乗れる。
ただ俺も入学したばっかりの1年の頃はまだまだ反抗期から抜け出せなくて、
先生や同学年の友人たちにはたくさん苦労をかけたと思う。
先輩方にも楯突いたり、同級生とたくさん喧嘩した。
その度に先生方に諫めてもらい、
なんども同級生たちとやりあううちに打ち解け、俺には兄弟はいないが、
兄弟のような親友であり、唯一無二の仲間になった。
進級に関してはそれほど問題に感じなかったが、年々パワーアップしていく仲間や、
試験内容、イベントなど飽きることなくここまで過ごせたと思う。
そう、俺はいつの間にか最終学年、4年生になった。
最初こそ、シェルムがいなくて心配で。誰かに取られてしまうのではと思い、
手紙も出してはいたが、長期休みがあれば毎年すぐに帰省した。
会えば安心するし、離れていても変わらず笑ってくれるシェルムに、
俺は安心感と信頼を覚えていた。
離れていてもシェルムとは繋がっていると。
1年から4年の年月は、俺とシェルムを大人に近づけるには十分で。
でも大人に近くなってきたからこそ足りなくて。
歯がゆさはずっと気持ちのどこかにあった。
卒業すればまたシェルムと会える。そうあともう1年あと1年頑張れば・・・。
**********
前の4年生たちが寮の部屋を空け、そこに新しい1年生がやってくる。
今日は入寮日。
俺も新たに1年生の荷物の搬入を手伝う。
なんでも同室の1年生は姉弟と離れたのが寂しかったとかで、飛び級したっていう噂だ。
年下なのに大したものだ。
1年生の荷物が落ち着いたところで寮の中を案内する。男子寮と女子寮。
談話室に食堂。
俺も1年生の頃には案内されたなと思い出しながら。
「食堂でお茶でも飲もうか、疲れただろう?」
1年生を誘いつつ、俺も腹が減ってきた。
昔から腹減りには適わない。全ての機能が俺は停止してしまう。
1年生に食堂での頼み方をレクチャーしようとしたところだった。
「待って~ララちゃん!!」
「!!」
バッと振り返る。
そこには食堂からちょうど出ていくところの従妹のララと見知った金髪の髪。
「シェ・・!!」
ルム と とっさに声をかけようとしたところで、
ララが金髪の子の背中を押してさっさと出ていく。
ベーッと舌を出してそそくさ出ていくララを見ながら俺は呆けてしまった。
シェルム・・・?
まさか、シェルムは地元の学校に進学するはずじゃ?
ララが魔法学園に入学するのは知ってたが・・・。
同室の1年生を放っておくわけにもいかず、俺は悶々としつつも。案内を続けた。
もし見間違えじゃなければシェルムも1年生として入学している?
そんなことこの前電話では何も・・・。
俺の思考はぐるぐる回る。
その後探してはみたが、門限の時間になってしまい、女子寮に近づくことは出来なかった。
******
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あれから幾度となく、いそうな場所。談話室や食堂、1年生が行動する場所へ赴いたが、
なんだかんだシェルムであろう金髪の女の子には会えずじまいでいた。
入学式当日。
清々しいぐらいの青天で、絶好の入学日和だった。
俺も新入生案内で学園に駆り出されている。
こんな時代があったな~と思いながら、新入生たちを眺める。
結局、電話で母親に聞いてもシェルムが入学してるかは聞けずじまい。
ララの両親とは仲が悪いわけではないが、
ララと共に入学してるであろう金髪の女の子の話はなかなか聞けなかった。
俺もことシェルムになるととことん弱気になってしまう・・・そういう自覚はある。
1年生は制服もローブも真新しくて各々緊張の表情、早速友達ができたであろう面々や
キョロキョロして危なっかしいやつやら・・・
自分の1年生の時を振り返る。
はじめて親元を離れて、緊張していたかというよりは舐められないようにって尖ってたな。
あれは今思い出すと黒歴史か?ちょっと恥ずかしい。
ここ、Wizard Programは少し変わっていてすぐに交流の場を広げる意味もあるのか、
入学式が終わった後すぐに近くの海辺でサマーフェスティバルと呼ばれる実習がある。
炎の技が得意な俺だが、水魔法はからっきしだったな。
今はちょっとは対応できるようになったかもだな。
騎士になるもの弱点も克服しないとな。
ここにいる1年生もそうやってやっていくんだろうな。
俺も残り1年気を引き締めていかないと。
ちょうど入学式も終わり、皆各々の教室に戻るためにばらける。
俺も一通り終わったし戻るか。
そう思っていた矢先。
どこから来たのか目の前に入学式のパンフレットが落ちた。
拾おうと思い、屈んだ途端。
「だーれだ!!?」
突然背中に重み、目の前はだれかの手で真っ暗。
「・・・・・ったく」
俺は声色に心当たりがあったので、そのまま背中の人物をおんぶする形で背負い、
目から手をどける。
「シェルムか!やっと顔だしたな!」
「あれ!?気づいてたのー!?」
「どうしてこの学園にいるんだ?」
「ルーくん、驚かせようと思って」
にこーっと悪気なく笑うシェルム。
「っていうか恥ずかしいからおろして~!!!」
っていうシェルムを無視して俺は寮までシェルムをおんぶすることに決めた。
「理由をちゃんと聞くまで開放しない!」
「えー!?」
やっと会えたのだから、簡単には離さない。
ただ約1名の従妹の視線が突き刺さるように感じるがそれも無視だ。
せいぜいキリキリしてみてるんだなとララの方に目配せする。
その日、学園行事はもうなかったので談話室で洗いざらいシェルムから話を聞いた。
ともあれ本当に同じ学園に入学するとは思っていなかった。
だが、一緒にいれる時間が増えたことが俺はたまらなく嬉しくて、
この1年が本当に楽しみで仕方なくなった。
***